擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
「というかさ、庶民がブランド物で身をかためてセレブに成り切るのって、わりとよくあることだし。亜里沙も社長に合わせるのは簡単じゃない? 上品なふりをすればいいんだもん」
「上品なふり……どんなふうに?」
「そうだねぇ……笑うときは唇に指先をあてて『おほほほほ』。言葉遣いは『~ですわ』って感じかな。簡単でしょ」
思わず連城の姿が思い浮かんだ。綺麗で気品があるけれど、性格にとても難のある人。
「え……そんなの、無理だよ。疲れそう」
それに彼は亜里沙の背伸びしないところが好きだと言っていた。無理に彼に合わせることはないと思う。
とはいってもあまりに庶民的過ぎても、これからの生活の中で、彼に恥をかかせてしまうこともあるかもしれない。
たとえば夫婦として公の場に出た時とか。セレブに交じると、立ち居振る舞いに歴然とした差が出そうだ。
──……少しは努力した方がいいのかな……。
「少なくとも、私の悩みよりは、絶対に贅沢なんだからね?」
「うん、ごめん」
「もうっ、冗談なんだから、謝らなくていいよ!」
恵梨香が声を立てて笑う。
「社長は亜里沙のそういう素直で素朴なとこが好きなんだろうね。きっと今までに会ったことがないタイプなんだよ。たった一日やそこらで見抜くなんてさ、やっぱり、人を見る目があるわ」