擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー
話をしてすっきりしたと言う恵梨香はすっかりもとの明るさを取り戻している。そしてふとなにかを思い出したように「そういえばさ」と言葉を継いだ。
「人を見る目がある、で思い出したけどさ……社長がYOTUBAに来た本来の目的って、なにか聞いてる?」
「なにも聞いてないよ。今んとこ家では会社のことは話題にならないから」
「そうなんだ。じゃあ、それとなく聞いてくれないかな? 業務改革って噂があるし、実際結婚発表の後に、『俺が来たからには~』って言ってたじゃない。人員整理もあるのかって、彼もちょっと心配してるの」
それは亜里沙も気がかりなことで、実際に戦々恐々とした身である。改めてあの時を思い出せば、滑稽でしかないのだが……。
「分かった。チャンスがあったら、さりげなく訊いてみるね」
恵梨香に頷いて見せた。
ほどなくしてランチを終えた二人は、午後の業務をするべく、YOTUBAへと戻った。
彼と一緒に暮らすようになって、大きく変わったのは通勤方法。
朝は彼の車に乗って出勤するけれど、帰りはふたりの仕事終わりの時間が合わないことが多いから、主に公共交通機関を利用している。
彼は連城の件もあって心配なのだろう。タクシーを使うように勧めてくるけれど、亜里沙は今のところ断っている。