擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

 いくらなんでも、毎度タクシーで帰るのは贅沢過ぎるのだ。

 そう伝えると、彼はボディガードをつけてくれた。だから帰宅時には、強面の男性が亜里沙の後を一定の距離を保ってついてくる。

『しばらくの間だけだから。タクシーを使わないのなら、ボディガードくらいはつけさせてくれ』

「私のためにそこまでしまくても、雄大さんにボディガードをつけたほうがいいわ」と言ったのだけれど、彼は頑として譲らなかった。

 だから亜里沙も「しばらくの間ならば……」と了承したのだった。

 彼のマンションは、徒歩五分圏内で生活に必要なものすべて賄える。

 立地は静かな住宅街だけれど、スーパー、カフェ、クリーニング、理容関係、銀行などなど、駅から歩いて帰る道すがらに確認しただけでも、かなり充実していることが分かっている。

 ──彼がここに決めた理由が分かる気がするな。

 そして今日、亜里沙は会社帰りにスーパーに寄り、とあるものを購入したのだった。

 ──雄大さん、これ見たらどんな顔するかな。

 わくわく半分、不安な気持ち半分で家に帰り着き、レジ袋の中に入ったそれを出して手に取って眺めた。

 瓶に入った琥珀色のそれは艶々としていて、ともすれば大きな宝石のように美しい。もともとこれが好きな亜里沙の頬が自然に緩んだ。

 亜里沙から彼へのちょっとしたサプライズでもあり、相性の確認のためでもある。

 彼の帰宅時間を知りたくて、スマホのメッセージアプリを起動させた。
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