副社長の歪んだ求愛 〜契約婚約者の役、返上させてください〜
「副社長の篠原です。それと、私の秘書の佐山です」

「佐山美鈴と申します。よろしくお願いします」

お辞儀した頭を上げると、東山さんがわずかに目を見開いていた。

「東山さん、どうかされましたか?」

篠原さんが声をかけた。

「いや、失礼しました」

東山さんは、何事もなかったかのように、篠原さんに向き直った。

「今度、顧客情報関係のセキュリティー強化を検討してるんです。その相談に乗ってもらいたいのですが」

「先日も他業種ですが、情報の流出が問題になってましたからね」

「ええ。なので、一層の強化をしたくて」

「それでしたら、後日こちらから足を運びますので、ご連絡ください」

「ありがとうございます」


去り際、篠原さんが背を向けると、東山さんは私にじっと目を向けてきた。
たぶん……私の知っているあの人で間違いない。
でも、彼も私を覚えているのだろうか……
何も接点はなかったはずだけど。


「佐山さん、そろそろ出るよ」

「はい」

さりげなく東山さんから目をそらして、篠原さんとともに、会場を出た。
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