副社長の歪んだ求愛 〜契約婚約者の役、返上させてください〜
そのまま、どれぐらいの時間が経ったのかわからない。
力の入らない体をなんとか起こして、ホテルの外に出た。

ロータリーに停まっていたタクシーに乗り込み、自宅の住所を告げる。
かろうじて残っていた正常な意識で、篠原さんに体調が悪くなったことと、先にタクシーで帰宅することをメールした。



「お客さん、着きましたよ」

タクシーの運転手さんに声をかけられて、はっとした。
いつの間にか眠っていたようだ。




部屋に入ると、真っ先にドレスを脱ぎ捨てた。
ネックレスも指輪もその場に放る。

すぐにシャワーを浴びたかった。
綺麗にしてもらったメイクも髪も、何もかも流してしまいたかった。
何もかも、なかったことにしたかった。



マナーモードにしたスマートフォンのバイブの音が、何度か響いてくる。
でも、見る気になれず、無視してベッドで丸まった。

ひたすら涙が流れてくるけど、その意味は自分でもわからない。

啓太さんが立花さんと付き合っていたことがショックだったのか、裏切られるようなことをされていたことが悔しかったのか……

どちらにしろ、私は契約した相手でしかなかったという現実に、目の前が真っ暗になった。



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