副社長の歪んだ求愛 〜契約婚約者の役、返上させてください〜
母が説明を聞いている間、受付の人が、フリースペースに置かれた電子ピアノを触らせてくれた。
私が鍵盤を押すと音が出る、というあたりまえのことが、幼い私には楽しくて仕方がなく、ずっと触っていた。

「みいちゃん、そろそろ帰るわよ」

「はあい」




「ママ、ピアノ楽しかった!!」

「そう。よかったね。これからもやりたい?」

「うん」

「じゃあ、パパにお願いしないとね」


その日の夜。
仕事から帰ってきた父を、休む時間を与えないぐらいの勢いで捕まえた。

「パパ、みいちゃんね、ピアノやりたいの」

「ピアノ?どうしてやりたくなったの?」

「うんとね、発表会に行ったの。うんとね、みいちゃんもやってみたい!」

「そうか。ママはどう思う?」

「今日の体験レッスンもすごく楽しんでやってたから、やらせてあげたいなあ」

「うん。よし、じゃあいいよ。美鈴の初めての習い事だな」

「やったあ!パパ、ありがとう」

父の許しもあって、翌月からピアノ教室に通うことになった。
< 23 / 239 >

この作品をシェア

pagetop