副社長の歪んだ求愛 〜契約婚約者の役、返上させてください〜
ピアノの練習は、とにかく楽しかった。
田川先生がすごく優しくて、通うのが大好きだった。

通いはじめて半年以上経った頃、田川先生から発表会のお話があった。

「美鈴ちゃん、今度の夏に発表会があるの。去年は確か、聴きに来てくれたんだよね?」

「うん」

「今年は、美鈴ちゃんにも発表してもらおうと思うんだけど、どうかな?」

「やりたい!」

「よかった。美鈴ちゃんはまだ始めたばかりだから、連弾っていって、先生と2人で演奏しようと思うの」

「連弾?」

「そうよ。曲は〝ちょうちょう〟よ。知ってる?」

そう言って、先生が弾いてくれたメロディーは、よく知ったものだった。

「知ってるよ」

「じゃあ、どんなふうに弾くのか、他の先生と弾いてみせるから、聴いててね」

田川先生は、山本先生という他の先生を連れてきた。

「山本先生が美鈴ちゃんの弾くところをやってくれるから、見ながら聴いててね」

2人の先生が聴かせてくれた連弾は、後から思えば簡単なものだった。
でも、幼い私には、何かすごく難しいことをやるようで、ワクワクしていた。
< 24 / 239 >

この作品をシェア

pagetop