副社長の歪んだ求愛 〜契約婚約者の役、返上させてください〜
「そうそう、お母さん。昔習ってた、ピアノの発表会に出てた男の子を覚えてる?」

「ああ。美鈴より歳上で、すごく上手な男の子がいたわね」

懐かしそうな顔をしながら、母が答えた。

「この前ね、取引先でその男の子と同じ名前の、東山啓太っていう人に会ったの。通販会社の副社長さんなんだって。たぶんだけど、あの時の人で間違いないと思う」

「へえ。そういえば、そんなような名前だったわね。仕事で会うなんて、世の中って狭いのね」

「ねえ。お母さんの方は、何か変わったことない?」

「いつも通りよ。特に何も変化なし」

そう言って、おどけた表情をした。

「退屈じゃないの?」

「毎日同じことの繰り返しが、私には心地良いわ」



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