夜空に君という名のスピカを探して。
『なぁに、平凡を極めたような女さ。君が気にすることのほどではないよ』

「なんだよその口調、誰だよ。とは言っても、お前のこともここに書かないとだろ」

『うぐっ……まぁ、そうなんですけどね』

「どんな髪の色をしてて、どんな目をしてるのか、どんな顔で笑うのかとか、知りたい」


 その言葉に嬉しくなってしまった私は、それを悟られないように咳払いをして『じゃあ、白状しましょう』と誤魔化す。


『髪はそうだな、長いよ。色は例えるなら紅茶色かなぁ、親友と美容院で染めたばっかりだったの。なのに事故るとか、どうせならそのお金で超特大パフェでも食べればよかった』

 私に予知能力があったらいいのにと、それだけが悔やまれる。

『私の美容院代、一万二千円カムバッークっ!』 

「……お前、本当に高校生か? 発想がオバサンくさいぞ。年齢、偽ってないだろうな」

『し、失礼な……。少なくとも宙くんよりは高校生っぽいことしてたよ!』

「それで、他には?」

『他って?』

「お前の特徴だよ」

『そうだなー、身長は百五十センチで小さいから、宙くんの身体になったときは背が高くてビックリした』

「お前とは三十センチくらいの差があるからな」


 ってことは、やっぱり宙くんは百八十センチくらい身長があるということか。

高身長で、しかもイケメン。

私はいたって平凡なのに、ひとりの人間に二物どころか三物、四物も与えるだなんて神様は不公平だ。


「生きてるときに、楓に会ってみたかった」

「っ……」


 私に会ってみたかったと、思ってくれた。

君は私の気持ちなんて知らないで、奇襲のように心を奪ってくる。

そのたび、私は懲りずにどんどん君を好きになっていくのだ。

 驚いてしばらく口きけなかった私は大きく息をつくと、今度は誤魔化すことなく素直に自分の気持ちを伝えることにする。


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