夜空に君という名のスピカを探して。
『宙くん、私も生きてるときに会いたかった。ちゃんと向き合って、宙くんの目を見て話してみたかったよ』


 それを聞いた宙くんの胸が、キュッと締めつけられる。

この切なさは、きっとふたりのものだろう。

密度の濃い沈黙が降りてくると「書き始めはどうする?」と宙くんが空気を変えるように言った。

 それにほっと胸を撫で下ろした私は、彼の気遣いに甘えて話に乗っかる。


『じゃあ、プロローグから。宙くん、私の言ったとおりに打ち込んでくれる?』

「あぁ、わかった」

 宙くんは頷いて、キーボードに指を乗せる。


 【それは桜舞う季節、始まりを運ぶ春に起きた小さな奇跡。】

 【運命が巡り合わせた、ふたりの軌跡。】

 【桃色の桜が雪のように降る石段を上がり、さらに坂道を進むとたどり着く。夜空にスピカの星が輝き、春の温もりに満ちた世界】

 【いつか私が消える日が来ても、君が見上げるスピカの星になってきっと会いに行くよ。】  

 【ならば俺は何年かかっても、幾千と瞬く星の中に君という名のスピカを探そう。】

 【だから、また会えるその日までしばしの別れを。】

 【さよなら。】

 【大事な私の、俺の──半身。】


「ここしか見てないと、なんのことを言ってるのかは分からないが……。お前の言葉って、綺麗なんだな」

『えっ、本当?』

「特に、何年かかっても幾千と瞬く星の中に君という名のスピカを探す、とかさ」

『ありがとう、すごく嬉しい』


 容姿を褒められるよりなにより、私の綴る言葉を褒められるほうが何倍も嬉しい。

彼は白黒はっきり告げる性格なので、これも本心から出た言葉だと思うと舞い上がってしまいそうになる。

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