夜空に君という名のスピカを探して。
「礼をされる意味が分からない。俺はただ、感想を言ったまでだ」

『それでも、ありがとう』


 彼のこういうところが好きだ。

お世辞は言わないし、適当に話を合わせることもしない。

冗談でさえ真摯に答えてくれる素直な君が好きだ。

 このままだと赤面して彼に気持ちがバレてしまいそうなので『続きやろうか』と話を戻した。


『じゃあ宙くん、私への印象を書いてみて』

「……聞き間違いだったら悪いんだが、俺が書くのか?」

『うん、最後に修正してあげるから、思ったままに書いてみてよ』

「いや、お前に見れらながら書くのは気まずいだろ」

『なに言ってんの。私と宙くんはあんなことやこんなことまで共有してきた仲なんだから、いまさら恥じるものなんてないでしょ』


 とは言ったけれど、さっきは小説を見られるのが裸を見られるより恥ずかしいと思っていたので、私は調子のいいやつだと思う。


「誤解を招く言い方をするな」

『ほらほら、時間は有限なんだから書いて書いて』


 宙くんが私のことをどう思っているのかが気になって、げんなりしている彼を急かす。


「わかったよ」


 渋々といった様子で、宙くんはキーボードを叩き始める。


 【彼女は姿のない幽霊だった。想像でしかないが、明るく飾らない性格なんだろう。きっと俺とは違って、表情豊かな人なんじゃないか、そう思った。】

 【つまり、なかなか好ましい性格をしている】


 彼の綴る言葉は決して綺麗とは言えなかったけれど、荒削りなところがどんな言葉よりも誠実だった。


『ぷっ、なかなか好ましいって……宙くん、本当になに時代の人?』

「そんなに変か?」

『いや、私はツボに入ったよ。あっ、私の宙くんの印象の所に【彼はまるで江戸時代からタイムスリップしてきた、武将のように堅物だった。】って、つけ足しといてよ』

「……お前、馬鹿にしてるだろ」

『ふふっ、してないって』


 私たちはクスクスと笑いながら、物語を綴っていく。

私たちの軌跡をたどるこの作業は、まるでふたりきりで旅をしているような、そんな幸福な時間だった。

 この日は日が暮れても、突然意識がなくなることはなかった。

それはまるで、神様がくれた贈り物のように思えた。



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