夜空に君という名のスピカを探して。
「えー、加賀見にそんなこと言えるやついるんだな」

「あぁ、おせっかいな幽霊がな」

「は? 幽霊?」

 目を点にする風間くんに加賀見くんはまずいと思ったのか、ゴホンッと咳払いをする。

「……ゆ、幽霊みたいな女なんだ」

「おい加賀見……それストーカーじゃね?」

 顔を引き攣らせて、風間くんは本気で心配し始める。

「まぁ、そんなもんだな」

『全然、違うよ!』


 ストーカーと一緒にするなんて、いたいけな女の子になんという仕打ち。私がひとりで怒っている間に、話はどんどん弾む。


「加賀見はイケメンなんだし、マジで気をつけろよ? なんなら、俺がボディーガードしてやるって」

「そういえば、風間は剣道部だったな」

 それを聞いて納得する。どうりで体躯ががっしりしているわけだ。

「おお、風間大輝(だいき)って言ったら恐れおののくぜ。俺の剣術は他校の剣道部部長を次々と打ち負かす、打ち負かす」

「また始まった、ダイの武勇伝」


 勝手に白熱する風間くんに苦笑を含んでそう言ったのは、柔らかそうな色素の薄い栗色の髪と人のよさそうな優しげな瞳をした男子生徒。

彼は通路を挟んで隣の列、風間くんの横の席に腰を下ろす。


「お、カズおはよう」

「うん、おはようダイ、委員長」


 風間くんにカズと呼ばれた男子生徒は、冷徹な加賀見くんにさえ物怖じせずに爽やかにはにかむ。

彼の取り巻く空気は澄んでおり、清潔感に溢れていた。


『おおっ、王子スマイル』


 彼の神々しいまでの微笑みは、神が与えたもうた奇跡だろうか。

絵本から飛び出してきた王子様にしか見えない彼に、私はすっかり心奪われていた。


『ちょっと加賀見くん、彼のフルネームは?』


「佐久間和彦(さくま かずひこ)だ」

『佐久間くん!』


 加賀見くんが小声で教えてくれた王子の名前を興奮しながら呼ぶ。

もはや加賀見くんの存在など、頭の中から消え失せていた。


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