夜空に君という名のスピカを探して。
「ははっ、加賀見、なんかいかがわしいお店だと思ってるだろ。普通のカラオケ店だよ」


 そう言って、お財布から会員証を出すと加賀見くんに見せた。

 それを見ていたら、彩と由美子と行ったのを思い出して懐かしくなる。

文化祭や体育祭、テストの終わりに、よくお疲れ様会と称してカラオケで歌った。

お菓子や唐揚げをつまみながら、学校の休み時間の延長みたいにくだらない話をしたりして、楽しかった。

 ふたりとも、元気かな……。

もう会えないと思うと、悲しかった。


「カラオケって、なにが楽しいんだ?」

 感傷的になっていると、不意打ちで加賀見くんが爆弾を落とす。

「え、なにが楽しいって……」


 佐久間くんは困惑したように、風間くんを見た。風間くんも頭をぽりぽりと掻きながら、聞きずらそうに声をかける。


「加賀見は楽しくないのか?」


 水を打ったように静まり返る場に、私は慌てる。

考え事をしているうちに、あろうことか楽しい会話に水を差すとは空気が読めないにもほどがある。

この言葉足らず、と罵りたいところではある。だが、それよりも誤解を解くほうが先だろう。


『加賀見くん、それだと「カラオケなんて、くだらない」って言ってるように聞こえるよ』

「なら、どうすればいいんだ」


 小声で私に助けを求めてくる加賀見くんに、私は本日二度目の助言をする。


『カラオケに行ったことがないから、どう楽しいのか教えてーとか、会話を膨らませて』

「わ、分かった……」


 首を何度も縦に振った加賀見くんは、なんとも言えない複雑な表情をしていた風間くんと佐久間くんの顔を見る。


「俺、カラオケとか行ったことないんだ。だからどう楽しいのか、分からなくて……だな」

「おいおい嘘だろ、カラオケ行ったことねーの? 一度も?」

 ぎょっとして加賀見くんを凝視する風間くんに、気まずそうな顔をして答える。

「あ、あぁ……一度もない」

「加賀見、いつの時代の人間だよ!」

「そんなに、おかしいか?」


 自分がなんでそんなに驚かれているのか、心底分からないと首を傾げる加賀見くんに、ふたりの話を見守っていた佐久間くんが「それなら……」と風間くんを見る。


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