夜空に君という名のスピカを探して。
「お、いいんじゃね?」

 風間くんは佐久間くんの視線の意味に気づいたのか、賛同するようにニッと笑う。

「俺らとカラオケに行こうぜ」

「駅で配ってる割引券もらったんだ。委員長も行こうよ」


 風間くんと佐久間くんが意気投合するように言って、加賀見くんを見つめた。

それについていけてない加賀見くんは「えっ」と気の抜けた返事をしたと思うと、自分が遊びに誘われたことにようやく気がついたのか、目を見開く。


「あ、いやちょっと考えさせ……」

 それではまるで、告白の返事を先延ばしにする女子みたいだ。

遠回しに断っているみたいになるではないか。


『そこは黙って、行ってきなさい!』

「……カラオケ、参加させてもらう」

 渋々、加賀見くんはそう返事をした。

するとふたりは顔を見合わせて、悪戯が成功したみたいに笑う。


「じゃあ日程だけど、俺は明日ならバイトないよ。皆はいつがいい?」

「そうか、カズは帰宅部だもんな。俺も明日は剣道部休みだから、オッケー。加賀見は?」


 ふたりが確認するように、加賀見くんに視線を向ける。

ふたりの期待に満ちた眼差しに逃げられないことを悟った加賀見くんは、観念したように首を縦に振った。。


「俺も大丈夫だ」

「よし、それなら決定だね。委員長、連絡先交換しよう?」


 佐久間くんがスマートフォンを取り出すと、風間くんも「俺も俺も!」と便乗する。

加賀見くんは促されるがままにスマートフォンを操作して、無事に連絡先を交換していた。


「じゃあ、明日の学校帰りに」


 スマホを持つ手を軽く上げて佐久間くんがにっこりと笑うと、風間くんが「おう!」と元気よく返事をした。

それを無言で見つめている加賀見くんに、小さく声をかける。



『よろしくって、言ったら?』

「あ、あぁ……よ、よろしく頼む」


 素直に頭を下げた彼はぎこちなかっただろうが、風間くんも佐久間くんも穏やかな表情を向けてくれていた。

 昨日とは違う加賀見くんの昼休みは人の声や椅子を引く音、廊下を走る足音や空いた窓から入り込む風の音にあふれている。

ガヤガヤと騒がしいかもしれないけれど、そんな生活音の中に加賀見くんが溶け込んでいるのを嬉しく思った。
 

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