夜空に君という名のスピカを探して。
「はぁぁ……」


 学校が終わって帰宅部の佐久間くんと校門で別れた加賀見くんは、ひとりになった途端に深いため息をついた。


『なぁに、その辛気臭いため息は』

「話しすぎて疲れたんだ、ほっておいてくれ」

『明日、楽しみだね』

「人の話を聞いてたか?」


 なんて言い返す彼の言葉に、覇気は感じられない。でも風間くんや佐久間くんと話しているとき、春の陽気のように胸の中がポカポカしていた。

あれは加賀見くんがふたりと話す時間に、心満たされていたからこそ感じたものだろう。


『それにしても今日の加賀見くんの対応は〇点、いやむしろマイナスの劣等生だった』

「それはお前が俺の中で、いちいち騒ぐからだろう」

『……ちょっと、助けてあげたのにそれはなくない? 幽霊パワーで呪ってやる』

「勝手にしろ、別に怖くないからな」

『えー、初めて私が話しかけたときは動揺しまくりだったのにー?』


 私は出会ったときの彼の狼狽えていた姿を思い出して、ぷぷぷっと笑う。

それが癇に障ったのか、加賀見くんが「ほぉ……」と低い声で呟いた。


「お祓いでもしてもらって、お前なんか追い出してやる」

『あっそ、勝手にすれば』


 話せば売り言葉に買い言葉で、いがみ合う私たちは相性が悪い。

なのにどうして、私はこんな性悪男に憑りついているんだろう。

どうせなら、佐久間くんに憑りつきたかった。 

 そんなことを考えていると、ふいに沈黙が訪れる。

少しの間を置いて、加賀見くんはぽつりと呟いた。


「カラオケか……なにを歌えばいいんだ?」

『普段、どんな歌を聞いてるの?』


 独り言のように聞こえたけれど、私はつい声をかけてしまう。

おせっかいな幽霊と前に加賀見くんに言われたことを思い出して、あながち間違いじゃないなと苦笑いした。


「クラシック」

『……ねぇ、私、歌って言ったよね?』

「仕方ないだろ、歌なんて音楽の授業で聞いた童謡くらいしか……」

『……はい?』


 聞き間違いじゃなければ、加賀見くんは童謡と言った気がする。

クラシックの次に童謡が出てくるなんて、彼は絶対に年齢を詐称しているに違いない。


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