夜空に君という名のスピカを探して。
『なるほど、加賀見くんは十八歳の皮を被ったおじいちゃんなんだ』

「聞こえてるぞ」

『仕方ない、今日一日で十曲はマスターしてもらわないと』

 片っ端から流行りの曲を聞かせるしかない。勉強はできると言っていたので、彼の暗記力に期待しよう。


「おい、十曲って正気か」

『暗記してよ、優等生くん。今夜は寝かさないからね』

「……頭痛がしてきた」


 額を押さえる加賀見くんを無視して、私の頭の中はすでにカラオケリストの作成中だ。

とはいえ、私は彩と由美子としかカラオケに行ったことがないので、男子が聞く曲に検討がつかない。

そうなると、男女ともに楽しめそうなドラマの主題歌とかがいいだろう。


「おい、せめて五曲にしろ」

『じゃあ、八曲目は……』

「……もう八曲目まで考えてるのかよ!」


 そんな加賀見くんの悲鳴が、またもやすれ違う人たちの視線を集めている。

それに気がつかない彼も懲りないなと呆れつつ、明日に備えて曲のラインナップを考えるのに必死だった私は、特に注意せずに家へと帰るのだった。



 帰宅すると、仕立てのいい革靴が玄関に並んでいた。ドアがガチャンッという音を立てて締まるのと同時に、パタパタと近づいてくる足音。

加賀見くんが顔を上げると、そこにはお母さんの姿があった。


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