夜空に君という名のスピカを探して。
「お帰りなさい、宙」

「ただいま、母さん」


 加賀見くんもならうように靴を揃えると、革靴をチラッと見る。

それからリビングへは寄らずに、自室へ繋がる階段を上ろうとした。


「宙、ご飯は……」

「今日は部屋で食べる。父さん、帰ってきてるんだろ」

「……分かったわ」


 呼び止めたお母さんだったが、切なげに眉尻を下げて諦めたようにゆっくりと踵を返した。

その背中を見つめる加賀見くんの胸が、ツキンッと痛むのを感じる。


 加賀見くん………。

やっぱり、お父さんと加賀見くんはあまり仲がよくないのかもしれない。家族なのに、どうしてだろう。


 お母さんの姿がリビングのドアの向こうへと消えると、加賀見くんは自分の部屋がある二階へと上がっていく。

いつもなら加賀見くんに「せっかくなんだから、家族でご飯食べなよ」くらいの説教もできるのに、今回ばかりはなにも言えなかった。

彼の胸の中に渦巻く複雑な感情が痛くて悲しくて切なくて、私から言葉を奪っていた。



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