夜空に君という名のスピカを探して。
「なんだっ?」


 マイクを落としそうになる加賀見くんに実践はこれが初めてなので仕方ないか、と私は苦笑いした。

 ただ、なんでも完璧にこなす加賀見くんが、たかがカラオケでこんなにもあたふたしている姿は面白い。

風間くんも我慢の限界とばかりに、ぶほぉっと盛大に吹き出す。


「なにやってんだよ、加賀見!」


 御腹を抱えて笑っている風間くんは、空いたほうの手で加賀見くんの肩をバシバシと叩く。

対する佐久間くんは肩をプルプル震わせながら必死に笑いをこらえて、助言をくれる。


「委員長、マイクをもう少し離したほうがいいよ」

 ついにふたりからどっと笑いが沸くと、加賀見くんの顔に熱が集まった。

「やっぱ俺には、こういうのは無理……」


 完全に意気消沈する加賀見くんに、私は『完璧じゃなくたっていいんだよ』と声をかける。

加賀見くんは迷子の子猫のような顔で「え?」と私の声に耳を傾けた。

世話が焼けるなと思いながら、ほっとけない私は加賀見くんの不器用さも好きだったりする。


『ふたりの顔を見てみなよ、楽しそうでしょ』

「それは、まぁ」


 笑っている彼らの姿を横目に加賀見くんは納得するも、まだ元気がなかった。

完璧でないといけないのも、優等生でいなければいけないのも、辛かっただろうな。


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