夜空に君という名のスピカを探して。
『なにもかも、完璧にできなくたっていいじゃん。うまくカラオケが歌えたことより、ふたりが笑ってくれたことのほうがすごいことだと思うよ』


 たぶん加賀見くんは、自分を褒めたりしないんだろう。他者から見ればすごいことも、まだ合格点じゃないと妥協を許さない。

それはいいことでもあるけれど、ずっと自分を追い込んでは気が滅入ってしまう。

だから私は宙くんに自分のいいところも悪いところも、好きになってほしかった。

自分を簡単に否定しないでほしい、その一心で彼を誉めた。


「そういうもんか?」


 私の気持ちが伝わったかどうかは分からないけれど、否定はしなかった。

私は少しでも加賀見くんの沈んだ心を、掬い上げてあげられるようにと声をかける。


『そういうもんだよ』

「そうか……」


 呟くように言った加賀見くんは佐久間くんのアドバイスを生かして、マイクを口から少し離す。

気を取り直して歌い始めた彼は昨日覚えたばかりで、しかも初めてのカラオケの割には歌の完成度が高く、私もふたりも感心するように聞き入っていた。


「お粗末さま」


 恥ずかしさを誤魔化すためか、抑揚なくそう言った。マイクを置いて加賀見くんは、はぁぁぁ~っと息を吐く。

それはもう、魂まで出ていってしまいそうなくらいに。


「お粗末なんてもんじゃないって、加賀見マジで歌うますぎ!」

「委員長、本当に初めて?」


 感動の声が上がる中、加賀見くんは照れくさそうに「あぁ」と答えて笑う。

 湯水が染み渡るみたいに胸が温かいのは、加賀見くんの中に喜びに近い感情が生まれたからだろう。


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