夜空に君という名のスピカを探して。
「いけない、もうこんなに日が暮れちゃった」


 前田さんが窓の外に広がる茜空を見つめて、ハッとした声を上げた。

 ふたりとも会話に夢中で、気づいてなかったのだろう。

私が特にアドバイスすることもなく、ふたりは和気あいあいとしてた。


「話し込んだな、悪い」

 軽く頭を下げる宙くんに、前田さんはふるふると首を横に振る。

「ううん、私はすごく楽しかったよ」

 そう言ってにっこりと笑う彼女に、宙くんの胸に噴水のように溢れ出てくる幸福感。

口を開けば悪態ばかりの彼も、こんなふうにくすぐったい気持ちを抱いたりするのだと驚く。

 彼が本気で彼女のことを好きなら、応援すべきだ。

ここは連絡先のひとつでも手に入れなければ、そう宙くんに言おう。

そう思って声をかけようとしたのに、出ない。

言おうと思っているのに、どうして私は躊躇しているのだろう。あまりにも薄情ではないか。

 迷いを振り払うように私はもう一度、意を決して彼に声をかける。


『宙くん、連絡先を聞いちゃいなよ』

「は、連絡先? そんなん無理に……」

『男なら当たって砕けなさいよ』

「砕けたら終わりだろう!」


 宙くんがツッコミを入れたところで、目の前の前田さんが「連絡先?」と首を傾げる。

 出た、前田さんの必殺技。

この可愛らしく首を傾げる仕草は、女の私でも魅入る。

男なんて卒倒するほどの破壊力だろう。


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