夜空に君という名のスピカを探して。
「ま、また明日」


 宙くんの言葉が届いたのか、前田さんは振り返って小さく手を振ると、そのまま教室を出て行く。

教室には、私と宙くんのふたりだけが残された。


『今日一日ですごい進展ですね、宙くん?』

「うるさいぞ」


 照れくさいのか、彼はふんっと鼻を鳴らしてぶっきらぼうに装う。

可愛げのない彼だけれど、そういう不器用なところも気に入っているだなんて、そう思ってしまう自分に敗北感しかない。


『もう空が暗くなってきてるし、私たちも帰ろうよ』

「お前に言われなくても分かってる」

『宙くんって、ほんっとーに可愛げがないよね』

「俺に可愛げを求めること自体が、間違ってるんだよ。帰るぞ、楓」


 ──帰るぞ楓。そのひと言に、心臓を鷲掴みされるかのような息苦しさを感じた。

 なんで、こんな気持ちになるのかな。

不思議、宙くんに楓って呼ばれるとくすぐったい。

まるで、宙くんが前田さんと話すたびに伝わってくる感覚に似ている。


「楓、聞いてるのか?」

『あ、はいっ』

 とっさに返事をしたせいか、敬語になってしまった。それに宙くんは、怪訝そうに眉をひそめる。

「寝ぼけてるのか……って、幽霊は寝ぼけたりしないか」

『幽霊……』


 ズキンッと胸が痛んだ。

幽霊って言われるのはいつものことなのに、君と同じ人ではないことがいまさら切なくなる。


< 66 / 141 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop