最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
「ああ、誤解をさせてしまったなら失礼。ナタリア様が外交に向いていないと言いたいわけではありません。そうではなく――僕はあなたの友人として、ご提案申し上げただけなのです」
ハルデンベルク大公は意味ありげな笑みを浮かべた。つややかな黒髪を持ち彫りの深い顔の端正な容姿の持ち主ではあるが、その笑みにはどこか醜悪さを感じる。
胡散臭さにイヴァンが思わず眉根を寄せると、ハルデンベルク大公は声を潜めて言った。
「プルセス王都の郊外に僕の所有する館があります。そこをお貸しいたしましょう。お相手は幾らでもご用意いたします。舞踏会を開くので、そこで気に入った女性をお選びください。イヴァン陛下のご寵愛をいただけるのなら皆、妻だろうと娘だろうと喜んで差し出すでしょう」
彼の下劣な本意が分かり、イヴァンは唇を噛みしめて顔を歪めた。
ハルデンベルク大公は、イヴァンにプルセス王国で愛人を作ることを勧めているのだ。しかもただの愛人じゃない。屋敷まで用意して、いわゆる現地妻というものを勧めている。
現地妻というのは厄介だ。他国の王族にはよその国に幾人も現地妻を持つ者もいるが、その存在が大きく外交に影響している。人間である以上、妻がいる国には戦争を仕掛けたくないという心理が働くし、庶子が生まれれば後々後継者問題に発展する可能性がある。さらには現地妻がその国のスパイだったというのは、よくある話だ。
ハルデンベルク大公の狙いはそこなのだろう。プロセス王国にイヴァンの家族を作らせれば、何かと外交に有利になる。
思慮浅い企みに心底呆れてため息を吐こうとしたとき、ハルデンベルク大公がわざとらしく眉を顰めて言葉を続けた。