最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
「ご事情は窺いました。愛する奥方様が心の病とは、心中お察しします。なんでも同衾すらままならないとか。どうぞプロセス王国へいらして羽を伸ばしてください。男というのは誰でも慈母のように包み込んでくれる女が必要なのです。ましてや背負うものが大きいお立場なら、なおさ――」

最後まで言い切る前に、ハルデンベルク大公はヒュッと息を呑んだ。

鋭く睨めつけるイヴァンの眼差しに、本気の殺意を感じ取ったからだ。

まるで人食い狼にでも対峙したような恐怖を覚えて、ハルデンベルク大公はカタカタと震える。恐怖で引きつった顔を無理やり微笑ませ、「いえ……あの……、ち、違うんです……」と首を横に振った。

「――俺が哀れか? ハルデンベルク大公。施しを与えてやりたくなるほど、お前の目に俺は哀れな男に映っているのかと聞いている」

ゆっくりとした口調で尋ねたそれは、底知れぬ怒りに満ちている。ハルデンベルク大公は震える脚で椅子から立ち上がり、汗だらけの顔を必死に横に振りながら少しずつ後ずさった。

「と、とんでもございません! 私はその……本当にご厚意のつもりで……、ど、どうぞ誤解なきよう……」

そう言って彼は部屋のドアまで後ずさると、「では僕はこれで」と素早く一礼し、逃げるように部屋から出ていった。

ひとり残されたイヴァンはテーブルの上のウォッカを一気に煽り、グラスをそのまま床にたたきつける。そして収まらない憤怒のままテーブルの上のボトルやオイルランプを乱暴に手で薙ぎ払った。
 
< 123 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop