最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
大きな物音を聞きつけて、すぐさま部屋の外にいた衛兵や侍従が駆けつける。
けれど部屋に入ってくることをイヴァンが許さなかったので衛兵たちがドアの前で立ち尽くしていると、報告を受けたオルロフがやって来た。
「陛下、オルロフです。いかがなさいましたか? ――入ることをお許しください」
オルロフが激しくノックをしながらそう呼びかけると、物音がやんだ後「……入れ」とかすれ気味なイヴァンの声がした。
そっと扉を開けひとりだけ中に入ったオルロフは、部屋の惨状に目を見開く。
グラスもボトルも花瓶もランプも、割れるものはすべて粉々に砕け散っていた。宮廷コレクションのアンティークの椅子は脚が折れて床に転がり、革張りのソファにはサーベルが突き刺さったままになっている。
部屋を見渡したオルロフはゴクリと息を呑んでから、背を向けて立っているイヴァンに目を止めた。
「……陛下。お怪我はございませんか」
近づいて来ようとしたオルロフを、イヴァンは軽く手を上げ『来るな』と意思表示する。
イヴァンの肩が上下に揺れている。相当暴れたせいで、まだ息が整っていないようだ。
しばらくの沈黙が流れ、いたたまれなくなったオルロフがソファに刺さったサーベルを抜き落ちていた鞘にしまっていると、イヴァンがククッと小さく笑った。