最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
声を震わせながら瞳を向けたオルロフから、イヴァンは無言でサーベルを受けとる。
そしてそれを腰の剣帯に嵌め直すと、睫毛を伏せて静かに口を開いた。
「……ナタリアが……ナタリアだけが、俺の救いですべてだ。それ以外の何も望まん」
その声が、やるせなさに満ちていると感じたのはオルロフの気のせいではないだろう。
崇高すぎる矜持は決して弱みを見せられない。けれど彼の魂は喘いでいる。どうかこの終わらない茨の道から刹那だけでも救ってくれと。
イヴァンは乱れてしまっていた髪を軽く手で整え直すと、ひとつ嘆息して「悪いが、部屋を片付けておいてくれ。それからハルデンベルク大公の寝室にワインの差し入れを頼む」と指示して、扉に向かった。
その背が部屋から出ていくのを見届け、オルロフはしばらく佇んだ。
そしてひとつの決意をすると、その罪深さに十字を切り祈りを捧げて神に許しを請う。
「主よ……皇帝陛下のために私が侵す罪を、どうかお許しください」
彼の祈りは誰が為のものなのか。
スニーク帝国の短い秋は間もなく終わり、また白く閉ざされる季節が近づいてくる。