最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
翌日からイヴァンは前線へ赴いた。
湾口には迎撃のための艦隊がズラリと並び、望遠鏡を覗けばテルキットの軍艦が遠く海上に見えた。
――しかし。報告で聞いていたほど戦況は切羽詰まっていない。数日ようすを見ていたが、海上をテルキットの軍艦が数隻ウロウロしているものの、攻撃を仕掛けてくる様子は見えなかった。
同時にイヴァンは司令部の雰囲気がまったく険悪ではないことに気づき始める。
総司令官の後釜を狙って将官たちの派閥争いが起きていると聞いていたが、ギスギスしているようすは見えない。イヴァンが誰を次の総司令官に任命するのか気にしてソワソワしている者もいることはいるけれど、報告されていた状況とはだいぶ違っているように感じた。
「陛下がいらしたことで皆反省し、態度を改めたのでしょう」とルカは言った。
「……ならば俺が長居する意味もないな。次の総司令官候補はもう決めてある。明日の招集会で叙任をしたら、明後日の朝にはここを発とう。王宮での仕事も溜まっているし、何よりナタリアのことが気掛かりだ」
予定では一ヶ月、テルキット海軍の侵攻具合によっては三ヶ月ほど滞在するつもりだったが、その意味はないようだ。問題が思っていたより大きくなかったことにイヴァンは安堵も覚えるが、肩透かしを食らった気にもなる。