最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
予定よりはるかに早い帰国の繰り上げにルカは一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに気を取り直したように「それなら」と口を開いた。

「明日の夜はささやかながら宴を開きましょう。兵士たちも長い膠着状態に疲れが見えます。せっかく陛下がいらしてくださったのですから、明日は兵士たちの休息も兼ねて食事会と舞踏会をいたしましょう。さっそくアルスキー辺境伯にそのようにお伝えいたします」

イヴァンが了承する前にそう捲し立てて、さっさと伝令に指示を出しに行ってしまったルカを、イヴァンは目をしばたたかせて見ていた。

ずいぶん性急だなと思ったが、おそらく宴会はもともと予定していたことなのだろう。戦地とはいえ皇帝がやって来ているのに、その地の領主がなんのもてなしもしないわけにはいかない。きっとイヴァンが帝都に帰るタイミングで、この市の領主であるアルスキー辺境伯が送迎の宴を開く算段がもともとあったのだ。

そう考えるといきなり予定を繰り上げたのは申し訳なかったなと、イヴァンは少し反省する。しかしここには遊びに来ているわけではない。必要がなければ一日でも早く王宮に戻るのが皇帝の義務だ。

ふと部屋の窓がガタガタと鳴り、イヴァンはそちらに目を向けた。

どうやら夜になって風が出てきたらしい。窓辺まで行って硝子越しに空を見やると、雲がすごい速さで北から南へと流れていた。
 
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