最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
美しい音色が流れていることに気づき、イヴァンは音のする方へ顔を向けた。
どうやら兵士の集まっている一角の中央で、誰かが楽器を奏でているらしい。
「この音はリュートか。珍しいな」
興味の湧いたイヴァンはそちらへ近づき、どんな者が奏でているのかひと目見ようと人垣のうしろに立った。そして巧みな指使いで弦を奏でる人物の姿を見て目を丸くする。
それは、イルジアでイヴァンに図々しくも愛人志願をしてきたジーナだった。
ジーナはイヴァンの姿に気づくと口もとを微かに緩めたが、演奏の手は止めなかった。そしてリュートを弾き続け最後まで曲を終えると、椅子から立ち上がってドレスの裾を持ちイヴァンに向かって頭を下げた。
兵士たちの拍手や口笛を浴びながら、ジーナはしとやかな足取りでイヴァンへと近づく。
「陛下、ご無沙汰しております。お元気そうなお顔が見られて、恐悦至極に存じますわ」
「……何故ここにいるんだ」
ずっと綻んでいたイヴァンの顔に、怪訝の色が浮かんだ。
けれどジーナは臆することなく、明るくも艶やかな笑みをチートの灯りの中に浮かべた。