最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
「お忘れですか? 私の父はロージン辺境伯の補佐官でございます。この街には私の実家の別荘もありますのよ。今日は父から陛下と兵士の皆さまをお迎えするお手伝いを、と言われてやって来ましたの」
彼女の話を聞いてイヴァンは口の中で舌打ちをする。嬉しくない再会だ。
また面倒なことをゴチャゴチャ言われるかと思うとウンザリして、イヴァンは踵を返しその場を離れた。しかし案の定、少し後ろをジーナはついてくる。
噴水の縁に乱暴に腰を下ろし後からやって来たジーナを睨みつけると、彼女はイヴァンから少し離れた場所に腰を下ろして、リュートの弦をひと撫でした。そして何も言わずゆっくり指を動かして曲を奏でだす。
賑わう庭に繊細で抒情的な旋律が流れる。スニーク帝国の古い民謡だ。
最初は彼女を警戒していたイヴァンも、心に染み入るようなメロディにやがて肩の力が抜けていく。
大騒ぎに飽きた兵士たちも少し離れた場所で音楽を聴き入り、中には故郷を思い出したのか涙ぐむものもいた。
「……達者だな」
曲が終わって沈黙が流れた後、イヴァンはワイングラスを傾けながらボソリと呟いた。
「子供の頃、この街で習いましたの。帝都や西の国々では廃れてしまいましたが、南の方ではリュートを教える者がまだいますのよ」