最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
(私から離れた方がイヴァン様はお心を休めることができるはず。……もしそれで、私の隣へ帰ってくることが嫌になってしまわれたとしても、それは仕方のないこと……)
ナタリアは唇を引き結び、ドレスの上で重ねていた手をギュッと握りしめる。憂いを侍女に悟られないように平静を保とうとするが、気を抜くと涙が込み上げてしまいそうだった。
(……どうすればいいの。ずっとずっとイヴァン様のおそばにいたい、そのためならどんな努力だってするのに。どうして私はあの方に悲しい顔をさせることしかできないの……)
顔を覆って泣いてしまいたかった。けれどナタリアにそれはできない。
病気のことに触れず明るく振舞うことが、自分に求められている役割だと理解しているからだ。
「ナタリア様? どうかなさいましたか?」
思わず眉根を寄せてしまったナタリアに気づいた侍女が、すかさず声をかける。
ナタリアはハッとして振り向くと、すぐに表情を和らげて「いいえ。何も」と答えた。
もう作り笑いを浮かべるのも慣れてしまった自分が悲しい。真実から目を逸らした無垢な笑みの仮面を、いったいいつまで自分はかぶり続ければいいのか。
「――外は寒そうだわ」
窓から鉛色の外を眺めて、あてもなく呟く。
どうか愛しい夫が、冷たくモノトーンに染まったこの国に帰ってきてくれますようにと願いながら。