最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
「結婚して十ヶ月が経とうというのにナタリア様には懐妊の兆しも見えない。きっと例の病のせいで夫婦生活も上手くいっていないに違いない。このままでは世継ぎの誕生も絶望的だ」
「教皇庁に離婚を掛け合うべきだ。雪姫などさっさとシテビア王国に送り返して、今度こそ健康な姫君を娶るといい。なあに、陛下もついに愛人を作ったくらいだ、もう雪姫にはウンザリしているに違いないさ」
無責任にナタリアを糾弾する声はやがて嫌でも本人の耳に届き、厚く降り積もっていた心の不安に雪崩を起こす。
それは降誕祭の夜のこと。
ミサの途中で意識を失ったナタリアは目を覚ましたとき、傍らにいたイヴァンの姿を瞳に映してポロポロと涙を流した。
驚き、肩を抱いて慰めようとしたイヴァンの手を、ナタリアは強く振り払って悲痛な叫びをあげる。
「……もういや! もういや! 私をシテビアへ帰してください! 私はあなたと結婚するべきではなかった、神様は祝福してくださらなかった!」
取り乱したナタリアを見るのは、イヴァンも初めてのことだった。
彼女はどんなに不安で苦しくても笑みを湛えて耐えてきた。イヴァンや周囲の者を気遣い、明るく振舞っていた。
けれど無責任な噂が、張り詰めていた彼女の心に亀裂を入れた。積もり続けていた不安が亀裂から零れ、怒涛のように溢れ出す。