最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
そんな光景にナタリアは呆れたが、気を良くしたイヴァンはますます顔を綻ばせてキスの雨を降らせる。そして。

「では早速、皇帝として国家安寧の重大な務めを果たすとしよう。お前らは出ていけ」

なんとイヴァンはナタリアのドレスのリボンをほどきながら、仕立て屋たちをシッシと追い出そうとするではないか。

「い……イヴァン様! アレクセイのコートをしつらえるのではなかったのですか!?」

「それは後でいい。今は子孫繁栄の責務の方が大事だ。『アスケルハノフ家の血筋を栄えさせよ』と神の声が聞こえたような気がするぞ」

「嘘おっしゃらないで!」

嬉々として妻をソファに押し倒そうとするイヴァンと、顔を真っ赤にしてもがくナタリア。そんなふたりを微笑ましくも恥ずかしそうに見ながら、仕立て屋たちは「それでは、のちほど」と部屋を出ていった。

皇帝の居間からゾロゾロと職人たちが出てきたのを見て、廊下を歩いていたオルロフと大臣たちが目を丸くする。

「いかがされたのです? 何か問題でもあったのですか?」

驚いたオルロフが声をかけると、仕立て屋たちは皆頬を染めて困ったように笑った。それを見てオルロフも大臣らも今、室内で何が繰り広げられているかを悟った。
 
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