最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
ユージンの発言は確かにいき過ぎていた。スニーク帝国とシテビア王国の関係の修復に長年心血を注いできたイヴァンの前で発するには、あまりにも無礼が過ぎる。

けれど、それとナタリアを皇后に迎えるかどうかは別問題だ。スニーク帝国を愛し誇りに思うからこそ、少しでも問題のある皇后を迎えたくない者もいれば、乱世なのだから外交の力になる皇后でなくてはいけないと考える者もいる。

そんなもの言いたげな臣下たちの視線を浴びながら、イヴァンは顔を上げ全員を見据えて宣言する。

「ナタリアを娶る。これはスニーク帝国皇帝である俺の決定だ。異論は許さん」

腹の中にどんな思いがあっても、臣下たちがそれを口に出すことはもはや許されなかった。

スニーク帝国には元老院があるがそれは諮問機関としての役割しかなく、実際は絶対君主制だ。皇帝であるイヴァンの決定は誰も覆せない。

イヴァンはテーブルに着いている者らが黙って俯き、または拍手するのを一瞥してから「それから」とさらに言葉をつけたした。

「俺の妻になる女を『雪姫』と呼ぶな。ナタリアは人間だ。何も問題はない。俺がこの腕で抱きしめることも、愛し合い子を成すことも出来る」

その台詞にさらに拍手を大きくしたのは、主にイヴァンの側近らだった。

王宮の壮麗な正餐室には出席者たちの口に出せない様々な思いが乱れ混じる。

コシカの都に初雪が降る、前夜のことだった。
 
 
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