最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
白鳥のペディメントがついた窓から、ナタリアは雪の舞い散る鉛色の空を見ていた。
雪はいつまでもいつまでも絶えることなく落ちてきて、見つめ続けていると気持ちがどこかへ吸い込まれそうになる。
(もうずっと太陽を見ていない……本当に雪の国なのね、スニークは)
ここはスニーク帝国コシカ宮殿敷地内にある離宮、キュクノス宮殿。白鳥をモチーフに建てられたこの宮殿はレリーフや彫像のついたつけ柱で飾られた白い外壁が特徴的だ。
スニーク帝国に輿入れした王女は結婚式までの間、仮住まいとしてキュクノス宮殿で暮らすことが伝統で決まっている。
イヴァンと正式に婚約が決まってから、ナタリアも例に漏れずここで暮らすようになった。もうすぐ一ヶ月になる。
一年前からスニーク帝国には舞踏会などで来ているけれど、こんなに長く滞在しているのは初めてだ。もっとも、これからは一生というさらに長い時間をこの国で過ごすのだけれど。
季節は冬。来る日も来る日もやまない雪の日々に、ナタリアは感心するとともに少し気分が滅入ってしまう。
シテビア王国のチェニ城にいたときも冬はよく雪が降ったが、絶えず降り続けることはなかった。何日かすれば必ず日が差したし、青空も見えた。
それに比べスニーク帝国の冬は本当に雪一色だ。白く覆われた建物と鉛色の空しかない景色は、なんだか世界から色がなくなってしまったみたいに見える。