最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
閉塞感を覚える景色に気持ちが引きずられそうになるが、笑顔を保っていられるのはやることが多いせいだ。

結婚式は三ヶ月後の年明け、一月。結婚式のドレスの制作や結婚式典やパレードの打ち合わせなどをしながら、ナタリアはスニーク帝国の風習も学ばなければならない。隣国とはいえ広大な土地を持ち様々な国と接しているスニーク帝国の風習は、シテビア王国とずいぶん違うのだ。

それにくわえスニークの宮廷での伝統やしきたりも覚えていかなくてはいけない。新皇后のやるべきことは山積みだ。

けれどその忙しなさが、ナタリアの気持ちを上向きにさせてくれていた。

もともと好奇心が強く勉強家なのだ、知らなかったことを学ぶのはとても楽しい。

ナタリアはなるべく外の風景のことを考えないようにして過ごした。窓の外はモノクロームの世界でも、部屋の中は色があふれている。東国織りの色鮮やかなカーペット、琥珀の壁装飾、孔雀石で飾られた暖炉、カラフルなタピストリ。これらはとてもナタリアの気に入った。

そして何より彼女の気持ちを明るくしてくれていたのが、婚約者であるイヴァンの存在そのものだった。

イヴァンは優しい。ナタリア以上に多忙な身でありながら少しでも時間が出来ると、すぐに顔を見にきてくれる。

ナタリアの体調や環境を気遣い、ときには贈り物までしてくれた。それは、楽器を弾くのが好きなナタリアのために作らせた名前入りのハープだったり、新しい毛皮の帽子だったり、スニーク工芸品のかわいらしい木彫りの人形だったりと様々で、どの品にも婚約者を笑顔にしたい思いが込められていた。
 
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