最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
ナタリアはイヴァンのことをとても好きだと思う。

皇帝である彼を勇敢な名君と国民が称える一方で、戦争好きの暴君だと陰口を叩く者がいることも知っている。

確かに領土戦争が激化している近年、スニーク帝国は軍事力に国費をかけねばならない状況に陥っているし、彼には自分が決めたことを誰にも覆させない強気なところもある。

けれどそれはこの戦乱の世で国を背負ったものの宿命だ。彼の決断や行動がときに傲岸不遜に見えても、根底には自国と民への底知れぬ愛がある。

ナタリアがチェニ城にいたときから、イヴァンはよくスニーク帝国のことを語ってくれた。

極寒の風土で育まれてきた独自の風習。西と東の文化が融合した独特の街並み。人々は長い冬と共にたくましく生き、春を尊び明るく歌う。白銀の世界も、神秘の永久凍土も、陽気で短い夏も、この厳しい自然の大地で生きる人間も獣も、イヴァンはすべて愛していると言っていた。

そんな彼のことを傲慢な暴君だと、ナタリアはちっとも思わない。気高く勇ましく、そして誰より心優しい偉大な国家君主だと尊敬さえしていた。

それに彼がナタリアの前で見せる顔は優しいものばかりで、いつだって慈しむような愛に溢れている。

恋を自覚した頃からだろうか、少し過保護気味な彼の愛し方が嬉しくてたまらない。ときどきはナタリアをからかって楽しむ困ったところもあるけれど、それすらも彼との楽しいひとときだ。
 
< 58 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop