最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
ナタリアは突然意識を失うことがある。朝でも、夜でも、座っているときでも、歩いているときでも。

ふっと頭の中が薄いカーテンで覆われたようになり、そのまま意識が真っ白に染まっていくのだ。そして短くて長い夢を見る。何かを探し、ただひたすらに白い世界をあてもなく歩いている夢を。

夢から覚めるとたいていベッドや長椅子に寝かされていた。開いた瞳に映るのは必ず泣き出しそうな顔でナタリアを見つめる人たちの顔だ。

意識を失う前にイヴァンがそばにいたときは、目覚めたときに必ず彼がかたわらにいた。

そんなときのイヴァンはなんともいえない表情でナタリアの髪や頬を撫でてくる。苦しそうで、泣き出しそうで、けれど怒っているようにも幸せそうにも見える笑みを浮かべて。

(この病は一生治らないのかしら……)

ナタリアはイヴァンの計り知れない思いを抱えた笑顔を思い出して考える。

医師は命や健康に影響を及ぼす病ではないと言っていた。ただ突然意識を失うだけだと。

ならばどうして目を覚ました後、あの人はあんな目で私を見るのだろうか。天国の中に地獄を見つけてしまったような、喜びと絶望の入り混じった目で。

考えても、ナタリアには分からない。自分のことなのに、分からないことだらけだ。
 
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