最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
「わかっております。でも……今日は私たちの結婚式なのに。一生で一番おめでたい日なのに踊れないだなんて、あまりにも残酷だわ」

寂しそうに唇を尖らせるナタリアに、イヴァンはとろけそうに目を細めて笑う。

(わがままを言うときの拗ねた顔は、子供の頃とちっとも変わらないな)

昔懐かしい感慨を胸にイヴァンはオルロフに何か耳打ちをすると、指を絡め合ったまま玉座から立ち上がった。

「一曲だけだぞ。俺が腰を支えるから、お前はなるべく足を床につけないようにしろ」

わがままを叶えてもらい、ナタリアはぱぁっと顔を輝かせた。高貴な皇后の面立ちが一瞬で花のような屈託のない笑顔になる。

オルロフから指示を受けた楽団は、次の曲をカドリールからスローテンポのワルツに急遽変更した。

イヴァンとナタリアが手を取り合って会場の中央へ向かうと、客人らは場を開けてふたりを囲むように人の輪が出来た。

イヴァンは向かい合ったナタリアの手を握り、もう片方の腕で彼女の細い腰を抱く。

楽団の弦がメロディを奏でだすと、ふたりは流れるワルツに合わせて体を揺らせた。大きな動きになるたびイヴァンはナタリアの腰に回した腕に力を入れ、彼女の体を軽く宙に浮かせる。その様は軽やかで、まるで蝶が舞っているように人々の目には映った。
 
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