最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
「重くありませんか? イヴァン様」
「ちっとも。まるで風と踊っているみたいだ」
「ふふっ、私も風の妖精になった気分です」
幸福に瞳をきらめかせ情熱的に見つめ合いながら踊る皇帝夫妻の姿に、結婚を反対していた家臣たちもわずかながら安堵を覚える。
「両陛下とも実にお美しい。おふたりとも大陸一の美男美女と言えましょう。……これで皇后陛下の〝あれ〟さえなければ、スニーク皇室は安泰なのですがな」
「ふん、美しさなどいずれは衰えるもの。心身ともに健康であることの方がどれだけ重要か。この宴が帝国凋落の幕開けにならんことを祈りたいものだ」
会場の隅でユージンとその取り巻きたちが、悲喜こもごもに語り合っていた。
その輪に加わっていた水色のドレスに身を包んだ色香漂う婦人が、扇で口もとを隠しながら呟いた。
「――おかわいそうな皇帝陛下。皇后陛下がどれほどお美しくても、お心を乱されてしまったら閨を共にすることさえできないのでしょう? 愛していても抱けないなんて、まるで雪姫みたい」
婦人の呟きを聞いた隣の男性が、眉を吊り上げ慌てた様子で「シーッ!」と人差し指を口に当てる。