最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
「その名は禁句だ、言葉を慎めジーナ! 陛下のお耳に入ったら大変なことになるぞ!」

「あら、ごめんなさい。あなた」

ジーナと呼ばれた婦人は夫に叱られながらも、飄々とした態度のまま視線をイヴァンたちから離さない。

そして鮮やかな色を塗った厚みのある唇を扇の影で微笑ませると、「でも――」と言葉を続けた。

「きっと陛下にはいつか必要になりますわ。本当の安らぎを与えてさしあげる女性が」

会場に流れるワルツは、若き夫婦の幸福も、人々の羨望と祝福も、思惑もすべてを呑み込んで夜を彩る。

やがてワルツが終わるとともに深夜を告げる鐘の音が鳴り、一日目の舞踏会は幕を閉じる時間となった。
 
 
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