同期が今日から旦那様!?〜そこに愛は必要ですか?〜
バックの中の婚姻届が気になりつつも、今更、取り出すこともできずにデスクの横に引っ掛ける。

使うことのなくなった婚姻届なんて、今や私にとってはただの紙屑。

ポイッと捨ててしまいたい。

けれど、されど婚姻届。

こんなのがごみ箱に捨てられるわけもなく、結局、バックの中に鎮座したまま。

はぁ・・・もう、本当、考えたくないのに。

気になってチラチラ見てしまう。

これを書いていたときはもっとふわふわした気持ちだったのに、今はどす黒い何かを生んでしまいそうな気持ちだ。
金曜日、別れて下さいと言った彼女は二股かけられていたことに腹は立たなかったのだろうか・・・。
ああ、妊娠してるって言ってたから私の方が浮気相手だった訳?
私、気づくのが遅すぎるわ・・・。
・・・本当、笑えないんですけど。
私の時はきっちり避妊してたくせに、彼女とは違うのね。
二人して私に別れ話を承諾させにきて、二人して微笑みあったりしてさ・・・二人して幸せオーラだしちゃってさ・・・二人して・・・。
あの時あの場所で、泣かなかったし怒らなかった私って、結構すごいよね?
まぁ、誰もほめてくれないんだけどね。

「橘さん、これお願いします」

「あ、はい」

差し出された領収書を受け取りながら、顔をあげると久しぶりに見る人だった。

「あ、藤堂君・・・」
「久しぶりですね」

彼は藤堂 優。同期の中でも出世株と言われている男性。
先月までロンドン支社にいた。
入社して一緒に働いたのは三年には足りないくらい。
彼はシステム開発部だし、私は経理部。
同期とは言っても、こうして月末に領収書をたまに持ってくる時くらいしか接点はない。
同期の女性の三分の二以上は結婚して退社してしまったから、私は数少ない彼の女性の同期だろう。
相変わらず丁寧な口調は変わらない。
そして長めの前髪も・・・。
よく目が見えないんだよね、ちょっと切ればいいのにって会うたびに思っちゃう。
営業とかじゃないから大丈夫なんだろうけど。
背も高くてスーツもいつも綺麗に着てる。
たまにかけてる眼鏡を今日もかけている。

「久しぶりだね。これ、今月分ね。処理しておくから」
そう言うと、彼はじっと私の顔をみつめたまま、(と言うか目が見えないから確信は持てないけど、視線を感じるから)動こうとしない。
???
「どうかした?」
そう言ったのと同時に、すっと手が伸びてきて頬をサラッと包む。
え・・・。
「体調悪いんじゃないですか?」
少し冷たい掌が頬に触れて、私の体温を確認するようにわずかに動く。
「え、あ、大丈夫だよ。ちょっと眠れなくて寝不足気味だからかな。だから、本当、大丈夫」
桃菜にも言われたけど、そんなに顔に出ているのかな。
チーク、もう少し濃く入れれば良かったかも。
私の返事に、イマイチ納得していないような感じの藤堂君は、再度確認するように頬を包むように撫でると
「本当に大丈夫ですか?具合悪いようなら早めに帰らないと。完全に悪くなってからでは、帰れなくなりますよ」
何となく怒っているような口調でそう言う。
「そうだね、うん。しんどいようなら早退させてもらうから。ありがとう」
心配、してくれてるのかな。
表情がよく見えないから、藤堂君はよく分からないんだよね。
「無理しないでくださいね」
念を押すようにそう言って、藤堂君は経理部から出て行った。
結構、心配性なのかな・・・。










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