完璧美女の欠けてるパーツ
土曜日の午後3時。
待ち合わせのシネコン前で梨乃は後ろで手を組み、背伸などして遠くにある上映中の予告作品を眺めていた。アニメあり極道ありSFあり恋愛ありファンタジーあり、12画面が色々なジャンルを流していて、それをクルクルと見ているだけでも楽しくなってしまう。
淡い色した画面の中で、男女がキスをしているのがあったので、きっとこれを観るのだろうと覚悟を決める。正直言えば、その隣のサスペンス映画を観たいけど贅沢は言えない。
今日の服装はショート丈のムートンに黒のブーツ。その下は落ち着いたオレンジ系のニットとブラウンのロングスカート。髪はゆるくアップにして、小さなパールの髪飾りをつけてみた。
私達もデートに見えるかな。
作戦会議の延長だけど、デートに見えたら嬉しいなぁと思う梨乃の前に、黒いジャケットを着た大志が走って来た。
「すいません。遅れました」
「大丈夫です」
梨乃が返事をして大志を見ると、大志はなぜか梨乃を一瞬見てからすぐ目をそらす。
最近これが多い。
ほんの一瞬の事だけど、梨乃の心は少しだけ寂しくなる。
「仕事をひとつ終わらせていたので、バタバタしてました」
「お仕事だったんですね」
「ちょっと急ぎの仕事だったので。チケット買って飲み物も買いましょう」
爽やかに言ってくれるけど。年末に向けて仕事も忙しくなると聞いていた。彼にとって今日も仕事の一部みたいなものだろうか。浮かれているのは私だけかもしれない。
クローゼットの服を山にして、今日の服装を考えていた自分が恥ずかしい。誰もいなかったら自分の顔を叩いて気合を入れたいぐらいだ。
梨乃は反省して大志の後に続いた。