完璧美女の欠けてるパーツ
映画は……退屈だった。
ベタベタの恋愛映画で、突っ込みどころがいっぱいで、ただ映像の美しさとこれから行われる官能的なベッドシーンが売りなのだろう。でもそれが目的なので仕方がない。勉強の為に連れてこられたのだから。
梨乃は一生懸命観ていたけれど、フランス人の男女はべろちゅーもせず、舌は絡めているようだけどキスもそんなにしつこくない。後半に期待していると……左肩が気のせいか重い。
ズルズルと大志の頭が梨乃の肩にのっていた。
間近にある大志の顔。ふと左を向くとすぐそこに彼のメガネとぶつかりそうなまつ毛が見える。
気持ちよさそうに大志は寝ていた。
仕事で忙しいのに無理させちゃったかな。
自分の肩で無防備に寝る姿が可愛らしくて、梨乃は幸せな気分になってしまう。
そして、そっと自分の手を彼の手に重ねて、梨乃も彼に寄り添い目を閉じる。
彼の寝息が心地よい。幸せで幸せでたまらなくなる、不思議な気分だった。
「お客様、入れ替えの時間です。席を立ってもらえますか?」
多少キツい声のお姉さんに起こされて、梨乃と大志は目を覚ます。
寝てしまった。
べろちゅーもベッドシーンも見損ねた。
「すぐ移動をお願いします」
引きつりながら紺の制服姿のお姉さんが容赦なく言う。きっと頭の中は『いちゃつくな!映画観ろよ!』って怒ってると思う。
「すいませんっ!」
「すぐ出ます!」
同時に謝りふと自分たちの状態を見れば、しっかりくっついて手まで握っているという。
互いに恥ずかしくなって手を離し、小走りでシネコンを出て顔を見合わせ爆笑した。
「映画観てました?」
「梨乃さんこそ」
本当になんだか
梨乃は幸せだった。