完璧美女の欠けてるパーツ

本当はしっかり映画を観て、その感想を食事をしながら語る予定だったけど、ふたりとも熟睡してしまったので感想にならず、ショッピングモールを軽く歩いてお腹を空かせることになった。

手は繋がない。
恋人同士じゃないから。

でも、映画館では繋いでいた。
寄り添って、甘い寝息で溶けそうだった。
安心して全てを任せられた。

「梨乃さん?」

「あっ……はい」
ぼんやり歩いていたのだろう、大志に名前を呼ばれて動きを止める。変なことを考えて嫌われるのが怖い。梨乃はクリスマスのディスプレイがキラキラ輝いている雑貨屋さんに目を向けて「可愛いですね」と声をかけた。

「そうですね、入りますか?」
「はい」
一緒に店に入ると、クリスマス関係の雑貨が並んでいて楽しくなる。大きなサンタの人形を見て驚いたり、クリスマスカードの種類の多さに感心したり、でも梨乃が一番見て飽きないのはスノードームだった。小さなサイズのそれを手にのせ、そっと中を覗いてみた。
白い雪が降る小さな世界の中、小さな家の煙突に小さなサンタが登っている。そんなユーモラスな世界が手のひらにあった。

「父親からの初めてのクリスマスプレゼントが、スノードームでした」
梨乃が言うと大志は「可愛らしいプレゼントですね」と微笑んだ。
「私が赤ちゃんの頃、両親が離婚してしまい、私は父親を知らずに育ちました。10歳の時に母が再婚して、父親ができて……その年のクリスマスプレゼントでスノードームをもらって、本当に嬉しくて宝物でした」
父はすごく恥ずかしそうに渡してくれた。
今もまだ自分の部屋に飾ってある。
懐かしい想い出が蘇る。

「それも可愛いですね」

「ええ」

「僕がプレゼントします」
大志は梨乃の手からスノードームを取り、レジに向かう。

「ダメです。そんなつもりで見ていたのではなくて……」
おねだりしたと思われちゃう。

「僕が買ってあげたいんです」
恥ずかしそうに梨乃に言う姿が、10歳の頃に見た父親の姿に重なる。

今日で世界が終わっても
幸せすぎて後悔しないと思った梨乃だった。

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