完璧美女の欠けてるパーツ
「店を出たらタクシーを拾って帰ります」
「送らせて下さい」
「いえ、もう大丈夫です。本当に大丈夫、今日は私の支払いでお願いします。今までのお礼です」
「僕が払います。それより送ります」
「では、私がタクシーに乗るまで送って下さい」
良い案だと梨乃は思ったけど、大志の顔は晴れずに終わる。
会計は大志が先に支払ってしまったので、梨乃は困ってしまった。いつもなら次は自分がごちそうしようとか思うけど、私達の場合は次はない。これでさよならだからと……。
店の前にすぐタクシーが停まっていて、梨乃はためらわずそれに乗り込もうとすると腕を捕まれた。振り返ると怖いくらい真面目な顔で梨乃を見ている。
「何かありますか?」
そう聞いても何も答えてくれない。
「映画、楽しかったです」
だから梨乃がそう答えた。
メガネの奥の綺麗な瞳が泣いているように見えていた。
「本当に楽しい時間をありがとう。大志さんのおかげです」
「梨乃さん」
「さよなら」
大志の腕を振り切り、梨乃はタクシーに乗って彼から遠ざかる。
さよなら
今までありがとう。