完璧美女の欠けてるパーツ
「何かいいことあったんですか?」
後輩のゆっちゃんが「部長から差し入れでーす」と、クッキーを梨乃に差し出す。
「ありがとう。そういえば本社に出張だったっけ、ここのクッキー大好き」
配られたのはガレッドに塩キャラメルを練り込んだ老舗のクッキーで、口のなかで溶けるような美味しさが魅力だった。
大志に食べさせたいと梨乃は思う。
自宅謹慎中ということで、妙に真面目な大志は外に出ず地味な生活をしていた。
大志をボコボコにしたハイスペック弁護士は高嶺の梨乃さんと別れ、別の女性と楽しんでいるというのに、なんだか損をしている気がするけれど、大志は『最初に手を出したのは僕で、大先生に迷惑かけたのは僕ですから』と、堂々と梨乃に言う。
昨日20階のコンビニ前で大志の事務所の大先生とすれ違った。
大先生は事務所の人に『鈴木君は今日も休みか?風邪?』と、すっとぼけた質問をしていたのは黙っておこう。
最近、美味しい物を見たり食べたりすると、大志に食べさせたくなる梨乃だった。
好きな人がいるってこんな感じなんだと、しみじみ幸せを感じてしまう。
どこかにラップはあったかな、でもバッグに入れて家に着いたらボロボロになってる可能性もあるかもと、クッキーを見てそう思う。
「梨乃さーん。意識飛んでますよー」
「飛んでない。大丈夫」
我に返った隙に油断してクッキーがポロっと欠けてしまった。あぁもったいない。