天満つる明けの明星を君に②
吉祥は、あてがわれた部屋に籠もるようになっていた。

それが不気味でもあり、雛乃も気にはなっていたが――自分のことで精いっぱいで、気を回すことができなかった。

天満は少なくとも好意を持ってくれている――

亡くした奥方には悪いけれど、天満が忘れられない過去から抜け出ようとしているのならば…自分がその助けになるのならば、と思い始めていた。


「吉祥が部屋から出てこないけど、それはそれで困るね」


「はい…。このままずるずる滞在され続けるのはさすがにちょっと…」


先日天満とひとつの床で眠り、口付けを交わしてから、まともに目を合わせることができなかった雛乃は、手にしている湯飲みをじっと見つめていた。

許されざる恋が叶うかもしれないという淡い希望を抱き、片時も天満から離れたくないという願望が強くなっていき、また暁を愛しく思う気持ちから、いつか自分にも子ができたなら、とも思ってしまう――

積極的ではない性格だけれど、天満への思いは止められない。

止められないけれど――


「雛乃」


「!?わ、若様…」


急に背後から声をかけられて振り返った雛乃は、廊下に佇む吉祥と爺が近付いて来るのが見えると、天満がさりげなく雛乃の背中に手を回して抱き寄せた。

それを見た吉祥は目の色を変えたが、爺にたしなめられて深呼吸すると、立ったまま腰に手をあてて高圧的に言い放った。


「今夜の百鬼夜行に同行させて頂きたい」


「それは兄にお願いするべきでは」


「いいや、天殿も共に。察するに毎日屋敷に居られるようですし、強く見えるのは見掛け倒しではないのかと」


――鬼脚と言えば鬼族の名家の中では末端。

こうして煽られること自体朔の耳に入れば万死に値すると首を刎ねられる可能性もあるが、天満は違った。


「ああ、僕は別にいいですよ。じゃあ兄に言っておきます」


「天様…」


「あ、雛ちゃんも一緒に行く?僕が傍に居るから大丈夫だよ」


すぐ頷いた雛乃に吉祥がまた目の色を変えた。

女の表情を見せる雛乃に、腹が立って仕方がなかった。
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