天満つる明けの明星を君に②
いくら病に罹らないとはいっても、暑さや寒さは感じる。

極寒の上空の空気はとても冷たく、さすがに身体の震えが止まらなくなった雛乃に着ていた羽織で包んで横向きに膝に乗せた天満は、猫又を急がせた。


「猫又、いつもの場所に行ってもらえるかな」


「いつもの?」


急旋回して幽玄町とは違う方向に駆け出した猫又はとても速く、天満に訊こうとするものの風で声が掻き消えてしまい、結局何も訊けないまましばらく駆けた後、緩やかに下降し始めた。

周囲は何やら少し臭い匂いがしていたが、その原因はすぐ分かることとなった。


「これって…温泉?」


「温泉というには狭くてお湯も浅いから、足湯って所かな。ひとりになりたい時とかここに来てゆっくりすることがあるんだ」


「ひとりに…」


雛乃を腕に抱いて地面に下りた天満は、山奥にひっそり存在している足湯に率先して足を浸けて座った。

温度も程よく熱く、手招きして雛乃を呼び寄せた天満は、おずおずと足を浸した雛乃の表情が明るくなったのを見て笑んだ。


「あったかい…。気持ちいいですね、天様」


「でしょ?ここは足湯だけど、僕が住んでた鬼陸奥の家には温泉が引いてあるから、いつか…」


「行きたいです。行ってみたいっ」


遮るように声を弾ませた雛乃の肩を抱き寄せた天満は、雛乃の頬に手を添えてじいっと見つめた。

一度だけ交わした口付け――あれからずっと意識されていて目を合わせてもらえなかったが、今は見つめ返してきて、期待しているのだと分かると、ゆっくり顔を近付けた。


「連れて行くよ。近いうちに、必ず」


「はい…」


浅く唇を重ねた。

今は雛乃もこれが精一杯だろうし、実は自分も精一杯――

誰も邪魔の入らない場所で、ふたりは気持ちを重ね合った。
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