天満つる明けの明星を君に②
天満の雄姿は正直凄まじかった。

妖刀ふた振りを自在に使いこなし、誰よりも速く駆けてはそれを振るい、敵はばたばたと屠られてゆく。

その懐には雛乃が居たと言うのに、まるで居ないかの如く雄々しさで、もし万が一見かけによらず弱かったのであれば、貶しまくってやろうと思っていたのに――


「爺…雛乃は遠野には戻らないだろうか」


「正直申し上げまして、無理かと」


「…あの三男坊といい仲というのは本当だろうか?俺にはそう見えん」


「しかし若…一切男とは触れ合わなかった雛乃様があの様子ではもう…」


ぎり、と歯ぎしりをした吉祥は、すり鉢の中の薬草を怒りの眼差しで睨みながら低く呟いた。


「あれは俺の女なんだ。昔からそう決まっていた。なのにあの男が!」


吉祥が単身で幽玄町に向かうと癇癪を起こしながら叫んだのを不安に思ってここまでついて来た爺は、吉祥がもし天満に何か手を出すのではないかと不安に思い、畳に手をついて身を乗り出した。


「何かあればお家の存続に関わりますぞ。噂によれば現当主の主さまはある一族を根絶やしにしたとか」


「うるさいうるさい!爺、俺に文句があるのなら今すぐ遠野に帰れ!」


――吉祥が作っている薬は、とても危険なものに見えた。

爺はそれを分かっていながらも指摘することができず、こんな魑魅魍魎が跋扈する場所から逃げ出したいと率直に思いながらも、背筋を正した。


「お供いたします。それが爺のお役目故」


「ふん、お前は黙っていればいい。父上には祝言の準備を進めておくようにと文を書いておけ」


「…」


にやりと笑った吉祥に思わず爺は深いため息をついた。

いつも、誰かから見張られている。

いつ殺されても、おかしくはない。

なんとか吉祥を説得してここから連れ出さなければ――

爺はそればかり考えて、痛む胃を押さえた。
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