天満つる明けの明星を君に②
決闘――受けて立てば、間違いなく殺される。

かと言って、天満の背中に隠れるようにして座っている雛乃を易々と奪われるわけにはいかない。

葛藤した吉祥は、拳が真っ白になるほど膝の上で握り締めて奥歯も噛み締めた。

天満は涼しい顔をしている。

…こんな色男に言い寄られたならば、どんな女だって参ってしまうに決まっている。

頑なに男を寄せ付けない雛乃の心を手に入れるのは自分だったのに。

はじめての男になるはずだったのに――


「私を殺せば鬼族の間に波風が立ちますぞ。如何に主さまに力があろうとも不和が…」


「そんなことは心配するな。俺の弟と戦うか否か――戦わず、ここを出るか、選択しろ」


「く…っ」


「坊ちゃま、帰りましょう…」


爺に促されると、かっとした吉祥はすくっと立ち上がって振り返り、雛乃を慄かせて声を張り上げた。


「受けて立ちましょう!爺、口出しをするな!」


「こりゃ面白いことになったな。百鬼集めて盛大にやるか」


面白がって囃し立てる雪男の様にもいらっとしたが、雛乃の一言にさらに頭に血が上った。


「天様…頑張って下さいね、私…」


「うん、君をどこにもやらないから、お茶でも飲みながら見てて」


天満の着物の袖を自然に握って微笑み合うふたりの姿を見て、頭の中で何か音がした。


ぶつん――


「やるしかない…やるしか…」


少し様子の変わった吉祥に輝夜は眉を潜めたが、何も言わずにじっと見つめていた。

朔もそれに気付いて注視したものの、吉祥と爺は軽く頭を下げてさっさと部屋を出て行き、雛乃はようやく胸を撫で下ろしてやや足を崩した。


「こ、怖かった…」


「あの男がよっぽど怖いんだね。僕には気が弱くて我が儘な男にしか見えないけど」


「嫌な目つきで私を見るんです。もうそれが本当に怖くて…」


相槌を打って雛乃の話を聞いている天満の穏やかな雰囲気に、面々はいつもどこか翳りのある表情をしていた弟の変化を如実に感じ取っていた。


吉祥は何か企んでいる――

天満か雛乃を脅かすかもしれない、何かを。
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